2015年6月 インタビュー

2015年6月30日、川崎のカウンセリングオフィスにてお伺いしました。

Q:今年一年、気付けばもう半年を過ぎてしまいました。上半期のご活動を振り返り、お伺いさせていただきたく思うのですが、まず第一に、グループ名を「ナムギャル・ツォクパ」から「ナムギャル」へと変更されました。これはとても大きな変化であったと思うのですが、どのようなお考えがあったのでしょうか。

新井先生:きっかけは今年のサンポの散歩でした。善光寺、高野山へと参らせていただいたのですが、そこでバス会社、旅行会社、昼食を取るところなど、団体名で予約をさせていただいたところ、いたるところで名前を間違えられてしまったんですね(笑)電話でも必ず聞き返されるということもありまして、度々考えていたことですが、10年目となるこの期に、より分かりやすく、より皆さんに親しんでいただきたいと「ツォクパ」という文字を外し、「ナムギャル」にさせていただこうと思いました。

活動のスタンスにつきましても同様に、より親しみやすいグループにしていきたいと考えています。この十年、まったく何もない状態からここまで皆さんのおかげで歩んでこれたのですが、グループとしてやっていくのであれば、しっかりと組織化していかなくてはならないと、思考錯誤を繰り返した歴史でもありました。

振り返ってみれば、当初はどのように活動していたのかというと、やはりカウンセリングでの出会いがあり、その中で仏教の学びをしたいという方々が集まってきてくださり、お勉強会が出来ていきました。 まさにその頃と同じように、10年というこの節目で初心に帰り、僕がいて、その周りに皆さんが車座になって集まっていただけるような、一人一人の生徒さんと僕が一対一で向き合い、対話していけるようなグループにしていきたいと思います。今後は素直に、シンプルにやっていきたいですね。

Q:昨年末に開催された「みんなでだんらん会」にもその片鱗が見えていた気がしました。

新井先生:そうかもしれませんね。だんらん会も足元を固めたいと言うか、基本に戻ってお堂でアットホームなものをやりたいと思い開催させていただきましたが、本当に楽しく、素晴らしい時間になりました。やはり格好付けてもしょうがない。シンプルに、親しく、心通わせてやっていくことが大切だと感じました。

Q:上半期のイベントの方を振り返らせていただきます。先ほど話題にも上がったのですが、第28回、第29回とサンポの散歩がございましたが、こちらいかがでしたでしょうか?

新井先生:善光寺は前立本尊御開帳、高野山は開創1200年祭と、どちらも大変混雑してはおりましたが、沢山の方々のご協力のもと、とても良い時間を過ごさせていただきました。一泊二日でしたが、どちらも25名以上の方にご参加いただき、とても楽しい旅となりました。

僕は「サンポの散歩」がとても好きなんです。お坊さんではなく、普通にお仕事をさせていただくとしたら、きっと添乗員さんが一番向いているのではないかと思います(笑)プランを考えるのもホテルを取ったりするのも好きですし、みんなをどこかへ連れて行ってあげたい、こういうものを見せてあげたいと強く思うんです。案内させていただいたところで一緒に見て、喜んでくださる顔を見るのがとても嬉しいんです。これは仏教がどうという話ではなく、単純に参加してくださる方と一緒に過ごしたいし、お話することも凄く楽しみなんです。

Q:その「サンポの散歩」ですが、今年の下半期にもご計画されているのでしょうか?

新井先生:10月に千葉県の清澄寺へ行きたいと思っています。養老渓谷とセットで紅葉を見ていただきつつ、気持ちよく、一緒に参拝させていただければと思います。

Q:上半期のイベントと言えば、他にサカダワ満月法要がございましたが、こちらはいかがでしたでしょうか。

新井先生:日本でも浅草寺の四万六千日ほおづき市もあるように、チベットではサカダワの満月法要はとても大切なものですから、その日に法要ができたというのは素晴らしいことで、滞りなく終えられたこと、とてもありがたかったですね。

法要と言えば、ナムギャルの中にあるTHC(チベタン・法要・クラブ)が9月19日 東洋文庫にありますオリエント・カフェで法要を行います。秋の法楽会(ほうらくえ)と言う形でやっていただく予定で、ぜひ沢山の方に足を運んでいただきたいですね。東洋文庫は、僕の師匠であるケツン・サンポ・リンポチェが十年間、日本でお勤めされていた場所でもありますので、不思議なご縁を感じます。

僕も講演させていただくのですが、親しくさせていただいている前田さんという方が、田中墨外先生の仏画の展示をしてくださるということが急遽決まりまして、ご好意が本当に嬉しく、ありがたく思っています。

Q:2015年の上半期も沢山の方々とカウンセリングでお会いされてきて、ご相談の傾向というか、このようなことに悩まれている方が多く見えるなど、お気付きの点はありましたでしょうか?

新井先生:仏教的なことではないのですが、「本来の自分で生きている人」というのは、少ないのではないかと考えさせられましたね。外の評価を気にし過ぎていたり、自信がないという方が多いのですが、それは自分自身の中に、自分以外にもう一人の自分――「良い子」を作り出し、そのキャラクターで生きてしまっている方が多いんですね。

本来の自分ではない、「良い子」で生き続けていると、「生きている感じがしない」とか、「評価されているうちは良いが、評価されなくなると不安になる」とか、どんどん自身の感覚を見失っていってしまい、自身の気持ちや行動に自信が持てず、他者の評価に依存することになります。

本来の自分は何をしたいのか――例えば、簡単なところでお昼ご飯に何を食べたいのかと考えるとき、「自分は牛丼を食べたい」、「自分はカツ丼を食べたい」と思ったとしても、「カツ丼食べると太っちゃうし、高カロリーだし、一週間の栄養のバランスが……」と思うと、自分の気持ちを意識することもなく、「サラダうどんを食べたい」と言ってしまう人がどれだけ多いのかと感じました。

一つ一つのことを、そのようにこなし続けていけば、どんどんと本当の自分が何を欲しているのか、何を考えているのか、分からなくなってしまいます。 ハッと何かを見たときに、「こう思ってはいけない」、「こう考えてはいけない」と心に蓋をするのもそうですよね。ファーストインプレッションを感じるのは仕方がないことです。それを恥じず、それをどう料理するかを考えるべきだと思います。

「良い子」ができる、「良い子」でいられることは、決して悪いことではありません。しかし、自分が『あえて』そうしているということを自覚し、認識できるといいと思います。自分らしく生きていけるよう、心に向き合っていただければと思います。

Q:これから2015年も後半に向かう中、この記事を読んでいる皆様に向けて、何かメッセージをお願いします。

新井先生:国内にも世界にも、今も本当にいろんなことが起きていますし、これからも起きていきますよね。起きてしまうことはどうにもできないことですが、せめて自分の心は平和にしていただきたいですね。心を平和にすることは唯一自身ができることです。僕もしていきたいと思いますし、皆さんにもそうやっていっていただきたいと思います。